日本での「警察への電話通報」は110番ですが、アメリカではこれが911番。
また救急車も消防車も同じく911番なのですが、まさかボストンに到着後わずか半年でこの911番に電話をすることになるとは夢にも … 。
といっても、これは泥棒に入られたのでも火事になったのでもなく、同じアパートの階下に住んでいた一人暮らしの高齢の白人女性の部屋から「強い異臭がした」ためでした。
その頃住んでいたアパートは煉瓦作りの三階建てで、僕たちの部屋はその三階。
街はわりと下町っぽいところで、アジア人やヒスパニック系の人々も多い場所でした。
そして一階にはどうやら一人暮らしらしい、とても痩せた高齢のお婆さんが住んでいて。
そのお婆さんのところには時々娘さんらしき人がやってきて、一緒に出掛けてゆくことがあり、杖をついても足元がおぼつかず、ゆっくりゆっくりと階段を降りて車に乗り込んでゆく姿を何回か見た覚えがあります。
それはある夏の日の午後のことでした。
その日は友達が遊びに来てくれていたのですが、三階の僕の部屋に入ってくるなり「何か臭わないか?」というのです。
臭うといっても三階の僕らの部屋ではなく、どうも階下から臭いがする、と。
僕はドアを開け、階段の踊り場に出てみたのだけど、確かに普段嗅いだことのない臭いがする。
それは放置されたゴミの臭いなどとは明らかに違い、まるで子供の頃に夏休みの課題で作った昆虫採集の標本のような、生き物の死骸が発する独特の臭いを僕に思い出させた。
嫌な予感がした。
まさか、とは思いながらも「一階の住人がどういう人なのか」を友達に説明し、二人でゆっくり階段を下りてゆくと、下がるほどに臭いは強くなる。
そしてそのお婆さんの部屋のドアの前まで来た時に、その予感が当たってしまったことを僕らは悟った。
「… あの、どうする?」
「… どうするって…。」
もはや疑う余地はなく、我々は「第一発見者」になってしまったのだ。
「部屋に戻って警察に電話しよう」
「電話って… 。こういうとき英語で警察に何て言ったらいいの?」
事が事だけに恐さが先にきて二人とも腰が引けてしまっているのだが、結局先輩でもある友人が電話をかけることになった。
数分後、すぐにパトカーと救急車が到着し、入り口で待つ我々のところに数名の警察官がやってきた。
「通報をくれたのは君たちだね?」
そうだと答え、僕は「ここがその部屋です」とお婆さんの住む1号室を指さした。
警察官はドアをノックし、耳をあてて中の様子を探うが、もちろん返事はない。
やがて僕の方へ来て「酷い臭いだね。間違いないよ。」と言った。
ドアには鍵がかかっている。
そこで警官たちは通りへと出て道に面した窓を調べると、そちらは鍵がかかっておらず、そこから二人が部屋の中へと入っていった。
まもなく住まいの内側からドアが開いた。
【続く】
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